第8章 月光
「君はいつもそうだ! 僕が願っても叶わないものを手に入れて、政宗公の隣もそして湯女ちゃんの隣でさえ僕から……僕から奪って!!」
「落ち着けッ、光忠……! 俺はあんたから、何かを奪おうなんて思ったことはない!!」
「ふ……っ、何を甘ったれたことを言ってるのかな? 君がどれだけ彼女を大事にして、大切に守っているかなんてね他の誰よりも知っているつもりなんだよ。正しいのは僕の方なのに、彼女はいつも君の言葉を聞き入れる!!」
「そんなことはないっ! あいつはそんな奴じゃない!! それは……ずっと俺が来るまで、近侍をしていたあんたなら、わかっていることじゃないのか!?」
「うるさいうるさいうるさいっ!! 僕からは、何も奪わせない……ッ!」
燭台切は力任せに大倶利伽羅へと迫り、あまりの気迫と力の差にだんだん圧し切られそうになったところで、大倶利伽羅は素早くそこから抜け出す。燭台切の刀は、無残にも畳を斬りつけるだけだった。
一歩彼から距離をとりながら、大倶利伽羅は困惑の色を見せる。
「どうしたんだ光忠ッ、何かあったのか!?」
「君さえ……君さえ現れなければ!!」
振り上げられた刀に対して、大倶利伽羅は戸惑いからか一瞬反応が遅れる。――だがその瞬間、二人とは違う声が室内に響く。
『光忠、準備が整った。あんたもこちら側に来い……女が逃げた』
「ん……? 今とてもいいところなんだけどなぁ」
聞こえてきた声に反応を見せた光忠は、仕方なさそうに刀を引いて懐に入れていた手鏡を取り出し鏡を見つめた。距離があるせいか、大倶利伽羅にはその鏡に映るとある人物の姿は見えていなかった。