第8章 月光
「湯女……いないのか? 入るぞ」
ゆっくりと戸を開ければ、思わぬ人物の背を見えて勢いよく障子を開け切った。
「あれ……倶利伽羅じゃないか、駄目だろう? ちゃんと乙女の部屋を尋ねる時はある程度声がかかるまで、開けてはいけないよ」
「光忠……っ! なんでお前がここにいる? 湯女はどうした!」
「……どうしたって、僕は何も知らないよ? 嫌だね……君は、どうして僕が何かしたみたいな口調で物事を進めようとするのかな」
「そんなつもりはない……っ。だが近頃のあんたは、少し変だ……だから警戒しているだけだ」
「寂しいことをいうんだね、昔は同じ伊達政宗公に仕えた立派な刀だったというのに」
大倶利伽羅の視界に、異様な気配を纏った手鏡が燭台切の手中に収まっていることに気付き眼光を鋭くする。
「その手鏡は何だ? この本丸にあったものではないだろう……」
「ふふっ、よく気付いたね……流石は倶利伽羅だよ。彼女の竜の鱗についても、何かを感じ取ったみたいだしね。僕には……到底出来ない領域だ、妬ましい」
「光忠……?」
燭台切は突如手鏡を懐に入れたと同時に、瞬時に抜刀し斬りかかってきた。それを見た大倶利伽羅は反射的に抜刀し、銀色の刃を受け止めた。燭台切の瞳は大倶利伽羅と同じ金色、瞳の奥に深い深い闇を見た気がした。