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刀剣乱舞 双竜はザクロを噛む

第8章 月光



「……湯女?」


 大倶利伽羅は静かに書庫の中で、ぽつりと名を呟いた。何か心の中がざわつくような、そんな不思議な感覚を覚えて手がかりの見つからない中、一度湯女の部屋に行くことを決めた。何冊読みふけってみても、一向に手掛かりになりそうな書物には結局辿り着けなかった。

 ただ溜息だけが積もり、これではいけないと大倶利伽羅は部屋を出た。


 本丸内では出陣している者達もいるせいか、やけに静寂が増しているように思う。これも原因不明の雪が、更に音を吸収してしまっているせいなのかもしれない。そう思いながらも、気付けば湯女の自室前へと辿り着いていた。
 考え事をしていると、時間が経つのは早いと言ったのは誰だったか。けれどそれは正解だと不意に思うのだった。


「おい、湯女……少し話をしたいのだが。いるか?」


 昼間、この時間帯であれば彼女が書類に追われている頃だろう。近侍だからこそわかる彼女の生活習慣の一つであった。習慣の一つとして、審神者の仕事が含まれてしまうのは多少同情できる要素でもあるが。大倶利伽羅の性格上、それはけしてなかった。

 暫く待っても、訪れるはずの声が聞こえてこない。大倶利伽羅は不思議そうに首を傾げて、書庫で感じた違和感を確かめるためにもう一度声をかけて戸に手をかけた。

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