第7章 輪廻
「変なこと、言わない……でよ……神域? そんな、どうして私が、そんな……」
「人間様。気付いてないの?」
少年の声に、ふと湯女が彼へと視線を向ける。少年は再びぎゅっと湯女の手を握ると、燭台切を後にして、一気に鉄扉の先へと湯女を連れて走り出した。
「人間様早く来てっ! その人、竜の人の香りがする……っ!!」
「ちょっと……っ!?」
「神域から出るためには、大倶利伽羅廣光の刀が必要なんです!! 早くッ!!!」
「……ッ」
湯女は未だ半信半疑のまま、少年の手を握り返して共に走り出した。目の前の燭台切の姿を背に、彼女はまだ見ぬ階段の下を目指し始める。二人が鉄扉を通り抜けると、不思議なことに自然と扉はひとりでに閉じていった。
燭台切は慌てて扉へと駆け寄ったが、時すでに遅し……二人の姿は扉の向こうへと消えていった。
閉ざされた扉の先、薄暗い階段をひたすら少年と共に下りていく。
「ねぇっ! ここが神域ってどういうこと!? ここは……夢の中じゃないの!?」
「ごめん、なさい……っ……僕には、力がないから……人間様を導くことしか……できないんです……ごめん、なさい……ごめんなさい……」
それでも少年は、湯女の手を離そうとはしない。彼女もまた、意を決したように大きく深呼吸をして、改めて少年の手を握り返した。
「今は……君を信じるしか、道はなさそうね」
湯女は少年と共に、薄暗い地下へと石階段を下りていった。