第1章 竜頭
「おい光忠、怖い顔してどうした? 暴れ足りなかったか?」
「ん……鶴丸さんか。別に、そんなことないよ。ただ……気に入らないなと思って」
語尾が低くなる。それに気付いているのか、鶴丸は肩を竦め力強く燭台切の背を叩いた。燭台切は小さく「痛い」とだけ口にしたが、視線はいつまでも本丸内へと消えていく大倶利伽羅と少女を捉え続けていた。
「そんなに気になるかい? 大倶利伽羅とお嬢が」
「……湯女ちゃんはね、わかってないんだよ。倶利伽羅に近侍なんて勤まるはずないのに、どうして……」
「自分ならもっと、上手くやれるのにってか?」
鶴丸がそう告げれば、燭台切の鋭い金色の瞳が方向を変え鶴丸を射る。恐ろしい視線を感じ取ったのか、顔を強張らせ鶴丸は一歩燭台切から距離を取った。
「ま、まぁお嬢にもいずれ気が変わる時が来るさ。なかなか周りと馴染もうとしない倶利坊のことを、気にかけているだけなんだろう。お嬢は基本的にお優しいからなぁ」
「それが困るんだよ……。重要な仕事だけ倶利伽羅に任せて、それ以外は僕を頼ってくれるのに……どうして全て任せてくれないのかなぁ。全然納得できない」
「倶利坊には下心がないからじゃないか?」
「それってまるで僕が下心だらけみたいじゃないか」
「違うのか?」
燭台切は深い溜息を吐くと、軽く鶴丸の足を蹴った。きっと先程の仕返しなのだろう。鶴丸は大袈裟に「いってぇ!!」と叫んでいるが、燭台切がその声を聞き入れるはずもなく不機嫌気味に目の前の門を潜っていった。
門の看板には大きく「相模B地区 本丸」と記されていた。