第1章 竜頭
「くっ倶利伽羅……っ、もうどうしちゃったの! 最近の君はなんだかおかしいよ?」
「……放っておけ。俺は一人で十分なんだ」
心配して駆け寄って来た燭台切を遠ざけるように、大倶利伽羅は部隊から背を向け空を仰いだ。
青い、蒼い、碧い空を見つめていると……ふと脳裏に自らの主である審神者の碧眼を思い出す。そうすれば少女の顔が思い浮かび、はっきりと輪郭を思い出せるまでとなる。そうしているうちに、景色はいつの間にか大倶利伽羅の見慣れた場所へと変わっていた。
「おかえりなさい」
凛と張りつめた声が響き渡る。声の主を探すように視線を上げれば、大きな趣のある門の前に洋装をした少女が佇んでいた。燃えるような長い赤髪に碧眼、首元に血のように赤いリボン、ボタンが沢山ついた黒い軍服ワンピースにピンヒールの編み上げブーツ。
少女は白い手袋を片方外し、大倶利伽羅へと手を差し伸べた。
「早く来なさい、倶利伽羅。貴方がいないせいで仕事が溜まっているの。いつまで遊んでいる気?」
「……ふんっ、昨日よりかは早い帰還だった」
「減らず口はよしなさい、馬鹿に見えるわよ」
大倶利伽羅が差し伸べられた手を取れば、少女は満足げに微笑むのだった。彼の手を引きながら、少女は呟く。
「……私の許可なく折れることは許されない。わかってるでしょうね?」
「あんたこそ、俺以外の奴に殺されるのだけは許さない」
「互いに忘れずにいましょうね。あの時交わした約束を」
そうこうしていく内に、去っていく二人を鋭い瞳で見つめている者の姿があった。少女と共に出迎えに来ていた刀剣の一人が、ふわりと白い着物を翻してやってきた。