第6章 表裏
「寒くないの? マフラーでも貸してあげましょうか」
「ん? いや、構わないよ。これでも中に厚着してるからね」
「なるほど。で、何かあった?」
「その……君に渡したいものがあるんだけど、受け取ってはもらえないかな?」
そうして懐から、鏡を取り出す。飾り気のないとてもシンプルなデザインだ。湯女が首を傾げれば、彼は柔らかい笑みを浮かべ更に言葉を付け加えた。
「そういえば、君の部屋には鏡台がないだろう? 姿を映す鏡の一つくらい……あってもいいんじゃないかと思って……手鏡くらいなら邪魔にならないかなって」
「……貰ってもいいの? 私、貴方に返せるだけの何かを持ってるわけじゃないのよ」
「別に返してもらう必要はないよ。僕が……勝手にそうしたいだけだから」
小さく燭台切がそう口にすると、湯女は彼の顔と鏡を交互に見つめて、それからそっと差し出された鏡を受け取った。燭台切は満足そうに微笑んだ。
「よかった、受け取ってもらえなかったらどうしようと……思っていたんだ」
「別にただの鏡でしょ、受け取り拒否をする理由がないわ」
そうして湯女が鏡を覗き込めば、ふと自分の姿が映っていないことに気付く。気のせい? 幻覚? 一瞬そう思えたが……暫く鏡を見つめていると、突然褐色の肌をした手が鏡の中から飛び出してきた。