第6章 表裏
『その鏡をお前の愛しい女に渡せばいい。女がその鏡に自らの姿を映せば、お前の願いは叶えられるだろう』
「何故僕に、こんなことをするの……。僕の願いを叶えて、君にどんな利益があるの」
『……お前の願いが俺の願いに届くから。それだけだ』
鏡を手に、燭台切が一度池から視線を逸らして再び見つめれば、水面にはいつも通りの自分の姿しか映っておらず、まるで先程の出来事が嘘のように廣光の姿はなくなっていた。けれど手にはしっかりと鏡が握られている。幻ではない、のだろう。
しんしんと降り続く雪の中、燭台切の瞳は一層深く濁り始め口元を歪めていた。
◇◆◇
湯女は自室の窓を通して雪を眺めていた。机の上に広がるのは、様々な書類と報告書。一番上に広げられた紙には、小さく「環境調整に異常なし」という文字が羅列されていた。小さく息を吐けば、温かな吐息が冷気に触れ白く靄となる。
何故こんなことになってしまったのか、原因は未だ不明だった。けれど夏の蒸し暑さに比べれば、冬の寒さは厚着してしまえば一通り凌げてしまう。ならばこれはこれで、悪くないのではと考え始めるのだった。
短刀達が賑やかそうに庭ではしゃいでいる。雪は昨日から、止むことなく振り続け緑を覆い隠すほどになっていた。
「湯女ちゃん、いるかい?」
「光忠? いるけど……何かあったの?」
燭台切の声に反応し、湯女が振り向けばゆっくりと障子を開け部屋の中に入ってくる彼の姿。相変わらずのスーツ姿で、あまり厚着して見えないところが心配だ。