第6章 表裏
『欲しがればいい、その感情に溺れてしまえばいいじゃないか。何を躊躇う必要がある? お前は……あの女を、慕っているのだろう?』
「なん、で……」
『別に。お前の瞳が俺にそう教えてくれただけだ。俺はあの女を欲している訳ではない、あの女の魂に興味がある……懐かしい、政宗の香りがした。興味はないか?』
「政宗公の……? でも、僕は顕現されてそんなこと一度も思ったことないけど。気のせいじゃないの? あの子は確か、宗三君が言うには本当にただの普通の人間のはずだよ。少しだけ霊力の強い」
『ならお前は、あいつの名を知っているのか? 名前には魂の輪郭が見えてくるものだ……知らないのか?』
「……知るわけないでしょ。人間が自分の真名を神に教えるということが、どういうことか。君にだってわかるでしょ?」
『くくっ、そうだな。それでもお前は欲しいんだろう? 女の真名も、身も心も全て……自分だけのものに』
「ちが……っ」
燭台切はゆらりと一歩、池から下がる。けれどだからと言って、廣光の言葉がそこで終わるわけでもなかった。
『俺は叶えてやれるぞ。お前の欲しいものを、手に入れるという願い。叶えてやれるぞ』
「……僕の、ほしい……もの」
すると池からぷかりと一つ綺麗な鏡が浮かんで来る。燭台切は眉間に皺を寄せ、そっとその鏡を掴み上げた。