第6章 表裏
「おっ大倶利伽羅……?」
水面に映った怪しげな男。その姿はまるで、燭台切のよく知る大倶利伽羅の姿と似ていた。けれどよく見れば、髪は大倶利伽羅よりも長く何処か違った雰囲気を感じ取れることが出来た。付喪神ではない。それだけは、はっきりと感じ取れた。
「いや、君は……誰だい?」
『俺は大倶利伽羅廣光。大倶利伽羅の元、とでもいえばいいのか…よくわからないが。磨上(すりあげ)される前の刀、とでもいえばいいのか? 何にしても俺があいつに似ているんじゃない、あいつが俺に似ている。ただそれだけ』
「……そう、生憎僕は磨上された彼しか記憶になくてね。僕は燭台切光忠、よくわからないのは僕も同じだ。一体君は、この僕に何の用なのかな?」
『流石付喪神ともなれば、人間とは違う反応を見せるものだな。あの湯女とか言ったか? あの女はわりと驚いて、それでも冷静に俺の話に耳を傾けてくれたな。実に面白い人間だ』
「湯女ちゃんに、何かしたの……っ!?」
『そう怒りを露わにするな、夢の中で挨拶をしてやったまでだ。ところで……お前、願いがあるんだろう? 俺は付喪神とは違うからな、お前の願いを叶えてやれるかもしれない』
「どうして僕にそんなことを言うの?」
容赦なく燭台切が切っ先を向ければ、心底おかしそうに廣光は笑った。何がそんなにおかしいのか、理解出来なかった燭台切からすれば実に不愉快な反応だ。廣光は一通り笑い終えると、真っ直ぐに燭台切を見つめた。
『俺には倶利伽羅竜の加護が奴より濃く残っている。付喪神よりも位の高い神に当たる。……湯女の事が、欲しいんじゃないのか?』
少しずつ、燭台切の瞳が見開かれていく。