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刀剣乱舞 双竜はザクロを噛む

第5章 停滞



「万屋まで買い出しに出ると、町の連中が恐ろしそうに噂話をしてやがる。なんでも夢に引きずり込まれる神隠し、だとさ」

「……夢」

「お前も知っての通り、神は夢を見ない。夢を見るのは人間くらいなもんだ。そこを付け狙うよからぬ奴がいるらしい、なんでも……町の奴らの話では夢の中に竜の男が出るという」

「馬鹿馬鹿しい……」

「そう思うか? 竜の男が、誰かを探しているらしい……という話だ」


 すると大倶利伽羅はぴくりと大きく反応を見せ、鶴丸を改めて見やる。そうすれば鶴丸は一度にやっと笑うと、大倶利伽羅に近付きその肩を抱いた。互いに距離を縮め、まるで内緒話を始めるかのごとく小さな声で話す。


「竜の男?」

「なんでも、全身に竜の刺青が刻まれた背中まで髪が伸びた男らしい。特徴的なのは、刺青と金色の瞳。人の夢を転々としているらしいな……」

「一体誰を探してる。そいつの目的は、人探しなのか? 見つけてどうするつもりだ」

「さあな、俺にはわからないし見当もつかない。ただ……その夢を見た者は、永遠に夢の中を彷徨うんだと。何人も夢から醒めなくなった者がいるらしい。とはいえ、あくまで噂だ。本当に消えたのかどうか、確かな情報は何もない」

「ふん……人間とやらは、いつの時代も噂話が好きだな。だからこそ、確証が得られるほどのものがない、と」

「そういうことだな」


 ぱっと鶴丸は大倶利伽羅から離れると、いつも通りのあっけらかんとした表情でけらけら笑いながら背を向けた。


「只でさえ、うちのお嬢は霊力が高くて変な奴に好かれやすいんだ。もう少し注意深く見てやってくれよ」

「そんなこと、言われなくともわかってる。何があっても、湯女はこの俺が必ず守り抜く……例え何があろうとも」


 大倶利伽羅の瞳が何処か強く、深く色付き光った気がした。鶴丸は視界の端にそれを捉えると、ふっと笑んでそれ以上言葉を残すことなく立ち去った。鶴丸がいなくなり、一人となった大倶利伽羅はちらりと外を見やる。

 未だ不可解な雪が降り、まるでこれから何かが起こることを予感させるような不気味さがある。一度息を吐くと、白い靄が周辺を漂い消える。


 ――結局、原因不明の雪は夜遅くまで降り続くこととなった。

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