第1章 竜頭
「大倶利伽羅。そなたの気持ちもわからなくはない、俺達とて思う存分己の刀を振りたいものだ。だがな? 他の奴らの顔を見てみろ、疲労が溜まっているのか……何処か集中力に欠ける」
「……」
言われて仲間達の顔を見やる。確かに心なしか疲労の色を隠し切れていない表情が並び、隊の中で練度の低い者などは額に汗を大量に滲ませていた。このままでは、今は平気に思えても戦闘に入った時どうなるかわからない。幸い負傷者は三名、どれも具合は軽傷で済んでいた。
「俺達は主の刃だ、主の命に反する行動を取るべきではない」
「なら俺達は何のために人の身体を得た!? 思う存分戦い、敵を殲滅するためじゃないのか……!」
大倶利伽羅が三日月の胸倉を掴み、勢いのまま思いの丈をぶちまける。自然と他の者達の視線が集まるが、三日月は特に気にも留めず涼しい顔をしたまま答えた。
「俺達は所詮ただの刀だ。人の形を得ようと、そうでなかろうと関係のないこと。我らが主――湯女姫が戻れと言うのであれば、俺はそれに従うまでだ」
「考えたことはないか? 自分の意思で出陣し、自分の好きなように敵を葬れたらと」
「……そなたは、戦狂いにでもなりたいのか? 無駄に血を流せば、必ず己に返ってくる。それだけは忘れるな」
三日月は柔らかく微笑んで、ぽんぽんっと大倶利伽羅の肩を叩いた。それを合図にするかのように、大倶利伽羅は掴んでいた手を離した。