第5章 停滞
「ふふ、ありがとう……僕のために」
「……? 別に当たり前のことでしょ? ところで、物置部屋で火鉢を探してくれてたんでしょ?」
「ああ、うん。でもさっき宗三君から火鉢ならこっちの物置小屋にあるって聞いてね、それで急いで来たんだけど……その必要はなかったみたいだね」
燭台切は遠くを見つめている。その視線を追いかけて、湯女が振り返れば彼の視線の先に大倶利伽羅の姿を捉えることが出来る。大倶利伽羅は火鉢を抱えて、湯女達とは別の方へと姿を消していく。きっと気を遣ってくれたのかもしれない。
湯女が再び視線を燭台切に戻すと、いつの間にか互いに距離は詰められていた。
「みっ……光忠?」
驚いて湯女が声をかければ、燭台切の手が伸びて優しく湯女の頬を撫でる。触れられた箇所から、ほんのりと体温が感じられて自然と安堵してしまう。やはり寒いせいか、温かさを感じるだけでこんなにも心がほどけていく。
けれどきっと、それは体温のせいだけではないだろう。湯女にとって燭台切のぬくもりは、とても身近なものだったからだ。――大倶利伽羅が近侍になるまでは。
「寒かったでしょ、ごめんね」
「何が……?」
「君が起きるまでに、火鉢を見つけて部屋に届けたかったんだよ。君は極度に暑がりでもあり、寒がりでもあるだろう? ふふ、僕は君のためなら何だってしてあげたいから」
「光忠の何だっては、本当に余すことなく何でもだから困るわ……私にも身の回りの事、もっとさせて頂戴」
「近侍じゃなくとも、僕にだって君のために出来ることがあるんだって、実感しておきたいんだ……駄目かな?」
燭台切が困ったように微笑んで見せれば、湯女はそんな彼の表情に弱いのだろう。湯女は半ば諦めた様に笑って彼を見つめた。