第5章 停滞
三日月が本丸内にある物置部屋の方へと足を運べば、不用心に戸が開けられたままだ。この場所は、特に太陽の光が差し込まない部屋であった為か、やけに湿気が籠り余計に嫌な気配を取り込んでいた。三日月は警戒したような表情で、そっと部屋の中を覗き込んだ。
「光忠……いるか?」
部屋の中に三日月の凛と、鈴のように美しい声が響く。しかし返事は一向に帰って来ない。三日月が首を傾げれば、誰かがこの部屋に向かって来る足音が聞こえてくる。瞬時に振り返れば、この本丸の刀剣であり湯女の初期刀でもある"宗三左文字"が、不思議そうに三日月を見つめて立っていた。
「どうかしましたか? その部屋はただの物置ですよ」
「いや……火鉢を探していたはずの光忠を、呼びに来たのだが。主から外の物置小屋にあると聞いてな」
「ああ、火鉢ですか。それなら少し前に私が彼にそう教えましたよ? そしたら彼は、外の物置小屋へと行きました」
「……。それは……まずいな」
三日月が早足で宗三の横を通り過ぎると、すぐにその足で外の物置小屋まで急いだ。すると宗三がすぐに三日月の腕を掴み、引き留める。
「ちょっと! 貴方は此処へ来てまだ日が浅いでしょう……外の物置小屋の場所なんてわかるんですか?」
「知らん」
「貴方と言う人は……はぁ、仕方ないですね。どうしてそこまで急いでいるか知りませんが、私が案内しますよ」
「うむ……いや、まぁ……俺が口出すことでもない、か」
そう思案すると、三日月は腕を掴まれたまま行動することをやめ身体を脱力させる。一体何がそこまで三日月に物置小屋まで駆り立てたのか、まったくわかっていない宗三は一人首を傾げるのだった。