第4章 悠遠
「そんな恰好で外にいたら、貴方の方が風邪を引くわ。せめて執務室の中で待っていたらよかったのに」
「いやいや、これでも俺は男の姿を得ているのだぞ? 乙女の部屋で着替えを待つなど、そのようなはしたない真似は出来ぬ」
「はぁ、変なところで律儀なんだから。で、倶利伽羅は?」
「はて? 物置小屋まで行ったきり戻って来ぬな。迎えに行くか?」
「そう……ね。でも先に本丸内の物置小屋で火鉢を探している光忠に、声をかけた方がいいかしら」
「いや、それなら俺がやろう。湯女姫は大倶利伽羅の様子を見てきてやってはくれぬか?」
「わかったわ」
部屋の外に出て、改めてわかることは既に庭に積もり始めている雪。積もるほど振っているということは、一体いつからこの雪は降り始めていたのだろうか? 湯女にわかるはずもなく、彼女は玄関に向かいブーツを履いた。
庭に出て外の物置小屋まで辿り着くと、壮絶な音が聞こえてくる。まるで物をひっくり返しているような……そんな音だ。湯女は何となく嫌な予感をしながら、そっと物置小屋を覗き込んだ。
中は思ったより暗く、埃っぽい。それもそのはずだ。暫く使われていなかったのだから、手入れされているはずもない。小屋の奥で、がさごそと動く人の姿を見つける。
「倶利伽羅、よね?」
「あ……? なんで来た。部屋で待ってろと言ったはずだ」
「だって火鉢を何処にしまってるかなんて、貴方にはわからないでしょ? 此処は宗三と私くらいしかあまり知らないから……よっと」
足元に転がる壺を跨ぎ、ゆっくり大倶利伽羅へと近付いて行く。彼も半ば諦めたのか、小さく溜息を吐くと湯女へと手を差し伸べる。一瞬訳が分からず、湯女が首を傾げれば大倶利伽羅は目を逸らしては、少しだけ恥ずかしそうに口にした。