第4章 悠遠
「俺が外の物置小屋まで火鉢を取りに行く。いいから湯女は大人しく暖かい恰好に着替えてろ、それで外まで出るつもりか?」
そう言われてよくよく自分の姿を確認してみれば、何とも涼しい恰好をしていた。それもそのはずだ。本来今は夏であるはずなのだから、手足が大胆に出ていたとしても何もおかしいことはない。だがもしも本当に、冬の季節に本丸内が調整されてしまっていたとしたら……確かにこの恰好で出歩くのは宜しくないだろう。
「よし、ならこのじじいが部屋の外で他の者が尋ねて来ぬよう、見張っているとしよう」
「ならその間に俺は火鉢を取りに行ってくる」
「えっ、ちょっと……!?」
湯女が何か返す前に、そそくさと二人は部屋を出て行ってしまった。仕方なく湯女は大きく肩を落とすと、すぐに長袖の軍服ワンピースへと着替える。身だしなみはいつも整える、それが近侍であった燭台切と交わした唯一の約束だった。寝る時は別として。
鏡の前で髪を整え終えると、ようやく襖を開け閨を出て執務室へと入る。障子越しに見える影は、三日月のものだろう。
「三日月」
障子を開ければ行儀よく正座している三日月の背があった。湯女の声に振り返った彼は、ふわりと微笑んで彼女を見つめた。
「ああ、着替えは済んだか?」
「……ちょっと待ってなさい」
「ん?」
三日月が首を傾げる中、湯女は一度部屋に入ると一枚羽織を引っ掴んで再び戻ってくる。そっと三日月の肩に羽織をかけてやると、ぽんぽんと優しく湯女はその肩を叩いた。