第4章 悠遠
「どうした、湯女姫。悪い夢でも見たか」
「あ……えっと……そう、かもしれないわね……」
「ふむ、そうかそうか。なら起こしに来て正解だったようだな? 湯女姫、火鉢が何処にあるか知らんか?」
「火鉢? 何に使うの……本丸の季節は今、夏のはずよ」
「……ふむ?」
三日月は首を傾げると、そっと湯女から離れ部屋の窓を少し開けた。すると冷たい風が部屋に入り込んで、寒気がする。寒気? と思い湯女が窓へと視線を向ければ、あろうことかしんしんと白い結晶が降っている光景が飛び込んでくる。思わず布団から起き上がって、窓へと移動した。
「えっ!? どっどういうこと……? 本丸の季節は、私の住む現代に合せて調整されている……はずなのに」
「ん? そうなのか? よくは知らぬが……この通り、目が覚めると朝から雪が降り続いておってな。大半の刀剣達が、寒くて起きて来られぬのだ。そこで今光忠が本丸の角部屋にある物置部屋にて、火鉢を探してくれているのだが一向に見つからんでな。知らぬか?」
「火鉢なら……暫く使わないと思って、外の物置小屋に置いてあるはずだわ。そうね、初期刀である宗三が近侍だった頃に使ってそこにしまったから、光忠は知らないのね……」
「うむ、そのようだな。では物置小屋まで行くとするか」
「ああ待って、三日月は最近来たばかりだから外の物置小屋と言っても、何処なのかわからないでしょ? 私も行くわ」
「それには及ばない。あんたはさっさと着替えて、部屋で待ってろ」
勢いよく襖が開けられたかと思えば、相変わらずの仏頂面を浮かべた大倶利伽羅が不機嫌気味に部屋に入って来た。三日月が意味ありげに微笑んで返せば、一層大倶利伽羅の眉間の皺が深くなった気さえした。