第4章 悠遠
「嫁入らせ候。本来は燭台切光忠を徳川頼房が政宗に、光忠を吾等に嫁入らせ候と戯れで口にしたことが始まりだった。政宗はそれを聞いて大いに笑い、秘蔵の子なれど上様の媒人ではいやとも言れまじ……と。進上した」
「……光忠が、徳川頼房の元へ?」
「そうだな。お陰で俺は、奴とあまり長い時を過ごすことが出来なかったわけだが……。まぁ、それはいい。ところで、竜に嫁入らせというのを聞いたことはあるか?」
「……っ! 倶利伽羅が、そんなことを……言っていた気はするわ」
「ふふ、あいつがな……。この倶利伽羅竜、ただの人間に喰らい付くようなそんな代物ではないぞ湯女」
「……そうよ、丁度この変な夢を見るようになってから……この刺青が現れるようになったのよ。貴方、何か知ってるの?」
「くくっ……知ってるも何も……」
廣光は刺青から指を離して、そのまま妖艶な手つきで湯女の頬をするりと撫でた。途端に走る、甘い痺れに似た感覚が湯女の身体を走り抜ける。ぎゅっと今以上に、倶利伽羅竜が自らの腕に絡み付くような……言いようのない感覚が駆け巡る。
「……んっ!」
「あんた、政宗と何の繋がりがある……? 俺にはわかるぞ。あんたは……――」
その言葉を聞く前に、ちりんと鈴の音が部屋を満たす。それを聞いたと思いきや――湯女の視界は瞬く間に白んでいった。
湯女はゆっくりと何かに誘われるかのように、瞼を開けると美しい三日月の顔が映り込んだ。ああ、夢は覚めたのだ。そうすぐに理解することが出来た。呆けた顔で三日月をじっと見つめていると、三日月はくすっと笑って着物の裾で口元を隠して微笑んだ。