第4章 悠遠
湯女は自らの顎に手を添え、考え込み始める。目の前にいる男が、果たして本当に大倶利伽羅廣光であるのか。そのことさえ不思議だった。けれど現に彼は大倶利伽羅と同じ容姿を持ち、彼が先程まで座っていた場所には大太刀が置かれている。
大倶利伽羅と違うところがあるとすれば、纏う独特の雰囲気と髪が長いということくらいだ。何処か怪しげで、油断すると吸い込まれてしまいそうなほど妖艶な瞳。じっと見つめるのが恐ろしくも思える。
ふと目が合えば、廣光は掴んでいた湯女の腕を離した。
「そんな警戒した顔をするな。人間を取って喰ったりはしない……特に、あんたはな」
「それはどういう……意味?」
「……政宗と同じ香りがする」
廣光はそう呟いて、先程と同じ場所へ戻り腰を下ろした。とんとん、と自らの隣を叩けば湯女は険しい表情のままそれに従う。そっと近付いて、隣に腰掛ければ廣光はぐっと湯女の顎を掴んで上に持ち上げる。品定めされているようで、何とも気分が悪い。
廣光の瞳が嬉しそうに細められたかと思えば、口元を緩め湯女の耳元へと唇を寄せた。
「あんた、いい香りがするな。政宗と"同じ魂"の香りがする……」
「……っ」
「一体あんたは、何者なんだ?」
「私? 私は……別に何も……」
「ふんっ、言いたくないなら今はそれでもいい。だがな、あんたがこの場所に訪れるようになって、何度目だろうな? なぁ……」
廣光は顎から手を離したかと思えば、今度は湯女の右腕を取り服を捲し上げる。そうすれば、彼女の腕に倶利伽羅竜の刺青が浮かび上がっているのがよく見える。彼はそれを見つめると、上から刺青を指でなぞった。