第4章 悠遠
「あんたは戻り方を知ってるのか?」
「……夢なら後々覚めるでしょ。ならいいわ、此処が一体どういうところなのか調べておく」
「好奇心旺盛なことはいいことだが、あまり賢明とは言えないな。仕方ないからこっちに来い、俺が此処のことをもっとよく教えてやる」
「……貴方、基本的に意地悪でしょ? そういうことは先に教えてくれるものだし、一々言い回しがまどろっこしいのよ。私のことを人の子、と言ったわね。つまり貴方は人ではないというの?」
「そうだな。察しの通り、俺は大倶利伽羅廣光という大太刀だ。ん……俺みたいな奴を、あんた達の世では"付喪神"というらしいぞ」
「刀剣男子、なの?」
「少し、違うな」
廣光は煙管を定位置に置くと、ゆったりした動作で未だ部屋の入り口にいる湯女へと近付く。一瞬怯えた様に、一歩下がる湯女だったが廣光の足取りに迷いはなく一気に距離を縮められ、徐に腕を掴まれる。
「さ、触らないで……」
「俺はこの夢の中でのみ、この姿を保つ。あんたの言う刀剣男子とやらとは違い、本来人の姿を持たない。わかるだろう? 刀剣男子というのは、元々付喪神を審神者の力で顕現させた者のこと」
「審神者を、知ってるの?」
「……知識だけだ。俺はあいつらとは違う……特に、大倶利伽羅とかいう刀と一緒にされては困る。ふんっ、磨上(すりあげ)されて己の銘さえ忘れたか」
「磨上? 確かに、倶利伽羅のデータには以前はもっと長刀だったと聞いたことがあるけれど……」
「大倶利伽羅などと、ふざけた名だな。元は大太刀であったはずの大倶利伽羅廣光が、時代と共に磨上されそう呼ばれるようになったのだと聞くが。戦の在り方が変わり、また刀の在り方も変わった。短く磨上ることが主流となり、その結果銘を削られることとなった」
「……そのせいで、倶利伽羅は自分を無銘だと思っている…のかしら」
「ふむ、恐らくは」