第1章 竜頭
「倶利伽羅!!」
「俺に指図するな……ッ、どう戦うかは俺が決める。お前なんかじゃ……ないッ!!」
大きく跳躍し、大倶利伽羅は敵の頭上目がけて刀を躊躇いなく振り下ろした。大倶利伽羅の足が地に着く頃には、敵の身体は大きく傾き倒れていた。
「やったね! 倶利伽羅」
「一々やかましいんだ、お前は。他の連中はどうした?」
大倶利伽羅が辺りを見渡すと、遙か遠くの方で大太刀に苦戦している仲間の刀剣を視界に入れる。彼は溜息を吐くと、その方角へと足を運ぼうとした。しかし……――
「若いのはそこにおれ、邪魔になる」
「……三日月、宗近」
大倶利伽羅の横を颯爽と馬に乗り、駆け抜けていったのは蒼い着物が印象的な美しい刀剣。三日月宗近。
素早く敵の大太刀の前へと馬を滑り込ませると、無駄のない動きで鮮やかに敵を沈めてしまった。あまりに艶やかな剣筋に、周りにいた者達は思わず見入ってしまう。だがそれも一人の少女の声により、現実へと引き戻される。
『第一部隊、帰還しなさい。進軍は許されないわ』
声を聞いた者達はそれぞれに安堵の息を漏らす。けれど大倶利伽羅だけは、眉間に皺を寄せ聞こえて来た声に向かって言葉を投げつけた。
「おい、俺達はまだやれる。刀装も余ってる、問題ない」
『……。三日月、状況は?』
「うむ。確かに大倶利伽羅の言うことも一理ある、が……俺も進軍はせぬ方がよいと思う。これは第一部隊、部隊長である三日月宗近としての判断でもある」
『すぐに撤退の準備を整えるわ。負傷者が入れば報告しなさい』
「あいわかった。手入れ部屋を三つは空けておいてくれ」
『了解したわ』
そこでぷつりという何か、糸のようなものが切れる感覚を覚えたかと思えばもう少女の声は聞こえなかった。大倶利伽羅が隠そうともせず舌打ちをすると、近くにいた三日月が彼へと視線を向けた。