第4章 悠遠
夢。人は眠りと共に様々な夢を見る。覚えていようが、いなかろうが毎夜人は夢を見るのだという。現実と切り離された世界でありながら、その生々しさは目覚めてもなお肌に残るほどに鮮明だ。
湯女はもう何度目かになる夢の中で、再びあの奇妙な屋敷へと佇んでいた。彼女の記憶の片隅では、数時間前に燭台切の胸の中にいた自分を思い返す。それから……――それからどうした? 曖昧に記憶の断片を探る。ああそうだ、あの後は疲れて眠ってしまったのだ。ふと、そう思い出す。
相変わらず気味の悪い屋敷の中で、彼女はゆっくりと足を進めた。何処か遠くの方で、ほろ苦くも甘い香の香りがした。誰かいるのか? そう思うや否や、湯女の足は自然とその方角へと向かい進む。
長い長い廊下を歩き、屋敷の奥の奥。角部屋。小さく障子が開かれ、そこからふわりと灰色の煙がすり抜けていくのが見えた気がした。
「誰か、いるの……?」
思わず声を出す。すると、声は返ってこないものの……まるで返事の代わりにするかのように、ふわりと部屋の中からまたあの灰色の煙がすり抜けて廊下に漂い始める。それに誘われるように、湯女は近付いて障子に手をかけた。
ゆっくり開けば、部屋の奥で煙管片手に窓から外を眺めている男の姿があった。その容姿に何処か見覚えがありながらも、所々違う箇所を見つけ戸惑ったように男へ視線を投げた。男は褐色の肌、背中まで伸ばした茶色い猫っ毛の髪。その姿はまるで――彼女のよく知る、大倶利伽羅と似ていた。
男は煙管を唇から離すと、低く湯女へと声をかける。