第3章 来往
「湯女ちゃん、どうかした? 僕でよければ……力になるよ」
「光忠……、私怖いの。もうどうしていいか、わからなくて……」
自然と声は震えた。今は一人になりたくなかった、傍に誰かいてほしいと願った。湯女は深く考えもせず、身を震わせながら燭台切に話し始める。
「腕に、腕に……竜の刺青が」
「竜の刺青? 少し見せて」
燭台切はそっと身を離し、断りを入れてから腕を捲って確かめる。そうして視界に倶利伽羅竜の刺青を入れると、目を細めてそれから湯女へと視線を向けた。
「倶利伽羅と、同じような刺青に見えるね。いつからだい?」
「五日前……」
「はぁ、他の人にこの事は伝えた?」
「倶利伽羅には、言ったわ。そしたら……少し調べてみるって」
「そう。まぁ、倶利伽羅に話すのは妥当なのかもしれないね。でもこういう時には、僕も頼ってほしいな。これでも僕は、いつも君のことを見てきたつもりだよ? ね?」
優しい声色でそう口にすると、燭台切は再びそっと抱きしめて安心させるかのように背を撫で続ける。燭台切の口元は、自然と湯女の耳元に寄せられ甘い声が彼女の中を満たしていく。
「僕を頼って。倶利伽羅じゃなくて、僕を……」
「みつ……」
「今までだってそうだったでしょう? 僕に全てを委ねればいい。僕だけが……そう、僕だけが君を守れるのだから」
湯女は未だ震える手で、そっと燭台切の背に腕を回した。縋りつきたかったのかもしれない。今はただ、誰かのぬくもりに。そうすれば湯女を覆う不安も恐怖も、薄れていくような気になれた。その場凌ぎでも構わなかった。今は、安心していたかった。
燭台切は湯女に見えないところで、口元は弧を描く。酷く嬉しそうに。
「君には、僕だけでしょう?」
それはまるで、呪いのように。