第3章 来往
「君は最近の光忠をどう思う?」
「え……?」
一瞬どきっとする。今の彼女には燭台切の名が出るだけで、ぎゅっと心臓を握られたような変な感覚がするのかもしれない。何も言わずとも、誰かが何かに気付いているような気がして。恐ろしくも思える。ましてや彼らは人ではなく、人の形をした付喪神であるということ。
人より何かと敏感であろう彼らに、湯女さえも見ていないものが見えているようか気さえした。
「いや、何も思わないのならそれでもいい。ただ……うん、やっぱり近侍を外されたことを気にしているのかたまに話しかけても上の空でな。無理にとは言わないから、少しはあいつのこと気にかけてやってくれ」
「鶴丸は仲間思いなのね。いいことだわ」
「別にそんなんじゃないさ! 勿論、君のことも大切に想っているよ。だからこそ、君に何かないかって心配もしてる。まぁなんだ、じじいの勘とでも思っておけばいいさ」
「……そうね、一度光忠とゆっくり話し合う必要があるかもしれないわ」
何かが少しずつずれ始めている。そんな感覚を湯女は覚える。鶴丸から視線を逸らしながらそう答えると、鶴丸は「そうか」とだけ返事をしてその場から立ち上がった。
「……夢には気を付けな。もっていかれないようにな」
「え……?」
鶴丸はそのまま障子を開け、倶利伽羅や光忠と同じ金色の瞳を一度湯女へと向けると部屋を出て行った。湯女の脳裏に刻まれていく、鶴丸の言葉と金色の瞳。何かに監視されているような、見られているような何とも言えない感覚に襲われ、部屋中へと視線を投げた。
しかし誰かの姿を確認できるはずもなく、湯女は溜息を吐いて腕を捲って刺青へと視線を落とした。
そっと撫でてみれば、更に自らの中にある不安感が募るような気がした。