第3章 来往
忍び寄る影、虚ろな金色の瞳。湯女と大倶利伽羅の会話に聞き耳を立てる、一人の男の姿があった。角で身を隠し、目を細め彼女の声に耳を傾ける。彼の耳にも、湯女の五日前の出来事の全貌を知る事となった。
「ふぅん……そう。僕の願いが少しずつ彼女を捕えている証拠なのかなぁ? ふふ」
金色の片目を煌めかせて、男は静かにその場を後にした。
何かの気配に引かれるかのように、大倶利伽羅は勢いよく背後を振り返った。湯女は首を傾げて、彼へと問いかける。
「大倶利伽羅、どうかした?」
「いや……なんでもない。それにしても、その夢とやらが少し気になるな。あれから他に症状はあるか? 痛みとか」
「痛みは……ないわね。本当にただ、その夢を見て目が覚めたらこの刺青があった、それだけ。それからあの夢は見ていないし、偶然……だと思いたいけど。光忠は以前、伊達家にいたこともあるでしょう? だから何かあるか、とは思ったのだけど」
「……。調べてみる必要があるな」
大倶利伽羅はそれだけ告げると、何かを思案した様子で湯女に背を向けて立ち去っていく。湯女も引き留めるか迷うが、他にやるべきこともある。今は一旦彼に任せてみることにするのだった。
湯女はその足で一度、自室と兼ねている執務室へと戻る。机の上には、一通の封筒。それを手に、封を切るとすぐに中を確認した。中に入っていたのは"中堅審神者会"と記された一種の招待状だった。