第2章 鱗片
『これ……は……』
目の前まで近付いて、恐る恐る刀に触れようとする。――すると。
『触らないで』
『……ッ!?』
背後から突然気配と声がした。振り返るより先に、強く腕を掴まれ驚きながら振り返る。
『え……っ?』
そこにいたのは、眼帯のしていない黒い瞳をした燭台切光忠が立っていた。
『ああ、忌まわしい』
『みつた……っ』
彼の名を呼ぶよりも先に、ぶわっと大きな風が吹きすさぶ。突然のことに、ぎゅっと目を閉じれば……意識は深い深い闇の底へと沈んでしまう。暗転。
次に彼女が目を覚ました先には、見慣れた閨の天井が出迎えてくれる。知らぬ間に乱れていた息を整え、額に汗を滲ませ思わずそのまま飛び起きた。
「あれは、なに……? 夢、なのよね?」
見たことのない屋敷、燭台切光忠の刀、そして眼帯のしていない黒い瞳をした燭台切の姿。何が一体、これはどういうことなのか? 未だ寝惚けたままの頭で必死に整理しようにも、どうにもまだ現実と夢の境目から抜け出せていないようで。
仕方なく湯女は大きく深呼吸して、後で纏めて考えることにした。だが途端、急に右腕に痛みが走り思わずその箇所をぎゅっと抑えた。
「いっ……! な、なに……?」
恐る恐る、腕を捲ってみる。そこには……――見たことのない、奇怪な鱗が浮かび上がっていた。しかもそこは丁度、夢の中で奇妙な燭台切に掴まれたところだった。何故か、くっきりと掴まれた手の痕が残っている。
「な……何なのよこれ……ッ!!」
一目見ただけではわからなかったものの、その鱗模様は何処か……大倶利伽羅の腕にある倶利伽羅竜の刺青に似て見えた。