第2章 鱗片
「つまりは、君が彼女に入れ知恵したんだね?」
「……」
「うんうん、別に答える必要はないよ! ああそうか、なんだ……ふふっ。じゃあ、彼女は悪くないんだね……うんうん、仕方ない子だなぁ……」
ぶつぶつ呟きながら、燭台切はふらりと方向転換し湯女の部屋の前を立ち去っていく。大倶利伽羅に背を向けながら、遠ざかっていく彼の方から本当に小さく小さく、不気味な言葉が聞こえたのを大倶利伽羅は知ってしまう。
「……僕が助けてあげないとね」
◇◆◇
夢を見た。深い深い、暗い見たことのない屋敷の中。彼女は歩いた。廃れた建物の中、朽ちた花、壊れた花瓶、傾いた肖像画。どれも随分昔のもののように思えて、辺りはやけに焦げ臭く……まるで一度火事で焼けてしまったのでは、と思えるほどの臭いがした。
けれど柱は異様なほどにしっかりと残っており、彼女のいる建物は崩れることなく支えられていた。とても妙だ、いや……これが夢の中ならばこの奇妙な場所にも説明がつくのかもしれない。なら、深く考えるだけ無駄だろう。
湯女は思考することをやめ、奇妙な屋敷の中を彷徨った。
ふと、大きな部屋に入ったかと思えば部屋の隅に飾られている刀が見え、一瞬どきっと心臓を高鳴らせた。じっとりと、嫌な汗が背を伝っていくような感覚がした。……ゆっくりと、その刀へと近付いて行く。
これは夢だ、夢なんだ。だから何も怖いことなどない、あるはずがないのに……だんだん刀との距離を縮めるごとに心臓の音が聞こえて来そうな程、はっきりと脈打つ感覚を湯女は覚えるのだった。