第2章 鱗片
「長谷部、気持ちはわかるわよ。確かに光忠はよく出来た刀剣だし、正直彼のお陰で私はとても楽をしていたわ。でもね、そうやって何もかも彼に任せてしまって、もしも私が何も出来ない人間になってしまったらと考えると、とても恐ろしいの」
「湯女様……」
「だからね、これでよかったのよ。倶利伽羅はそんな私の異変に気付いて、こうして正しい道に引き戻してくれた。彼だってね、別に全然書類が出来ないわけじゃないのよ。教えれば整理くらいは出来るし、その他は何の問題もなくこなしてくれるわ」
「はぁ……。貴方がそう仰るのなら、それでも構いません。ですが、忘れないで下さいね……あの男、燭台切は貴方が近侍に戻してくれることを今か今かと待っております。大倶利伽羅を近侍にしてから、丁度今日でひと月が経ちます。そろそろ奴が何か言って来るやもしれません」
「そうね……」
確かな予感はなかった。けれど、湯女は何処となく晴れない気持ちのまま何とか己を奮い立たせて仕事に没頭した。長谷部の手伝いのお陰もあってか、数時間後には仕事を終えることが出来た。
長谷部が部屋から出て行くと、まるで入れ違いのごとく大倶利伽羅が本を抱えて戻って来た。
「あんたに頼まれた資料を持ってきた。こんなものが、検非違使対策になるのか?」
「さあ? まずは調べてみないとなんとも言えないわ。政府側も、検非違使のことを調査しているみたいだけどいまいち情報が掴めていないらしいのよね。わかっているのは、私達とも歴史修正者とも異なる勢力ってことだけ」
「ふんっ、それだけわかっていれば十分だ。ところで……」
大倶利伽羅は本を畳の上に置くと、ゆっくり湯女へと近付きそっと額に手を添えた。湯女は意味がわからず首を傾げると、大倶利伽羅は徐に彼女の身体を抱き上げた。