第5章 迷宮・ザガン
俺は一体何をやっているんだろうか。
シンドリアに彼女を誘ったのは俺自身だというのに。
気ばかりが急いて、彼女の気持ちを少しも考えてはいなかった。
「此方に来てから一度もまともに話せていないな……」
話せない所か、俺の方から避けてしまっている気すらする。
こんな姿を紅玉殿に見られたら何を言われるか……。
考えるまでも無く叱責をされた上にからかわれるのだろうな。
容易にそんな光景が思い浮かんでしまう辺り、彼女を蔑ろにしている自覚が俺にはあるようだ。
「せめて、美味しい料理を食べて笑ってくれれば良いのだが」
謝れば済む話ではあるのだが、この様に何日も会話してない状態では声をかけずらいし。
彼女は俺の料理を美味しいと褒めてくれた。
だったら、きっと喜んでくれるはずだ。
「よし、これで完成」
皿に盛り付け一息ついた、その時だった。
船が傾き、大きな振動が襲ってきたのは。
外で何かあったのか?
気になった俺が外に出て、見つけたものは……彼女が肌身離さず持っていた薙刀が海面に落ちそうになっている所だった。
嫌な予感を抱えつつも薙刀の方へ近づいて……見てしまった。
彼女の体が海底へと沈んでいくのを。
「っ!!」
全身が血の気を失ったかのように一瞬で冷えたのが分かる。
理性では誰か人を呼んできた方が確実だと言うのも分かっていた。
それでも俺は目の前で沈んでいく姿を目の当たりにして、冷静でいられるはずも無くて。
「瑠花殿!!」
気づけば体の動くままに海面へと飛び込んでいた。