第3章 煌帝国
その言葉は風に流されて消えるはず、だった。
だけど、幸か不幸か白龍さんに聞こえてしまったらしく……。
「……っ!?」
一瞬にして槍を振るう動作が止まる。そして目が合う。
驚き半分、動揺半分と言った表情の白龍さん。
私はと言えば、部屋を抜けだした言い訳を考えるでもなく、ただもう少し槍を振るう姿を見ていたかったと、そんな呑気なことを考えていた。
「な、何故瑠花殿がここに居るんですか!?」
見られていた事に対する照れ隠しなのか、やや声を荒らげて言う白龍さん。
そんな姿を不謹慎にも可愛いなんて思いながら、質問には答えず別のことを言う。
「槍を、扱うんですね。動き一つ一つが丁寧で……綺麗でした」
そう嘘偽りのない感想をそのまま伝えると、白龍さんは何度か口をパクパクとさせた後、「……綺麗じゃないです」と少し頬を赤らめながらそう零した。
「謙遜することないですよ。まぁ、私に言われても嬉しくないでしょうけど」
自嘲気味にそう言って、立て掛けてあった槍を手に取る。
うん、重さは少し軽いけど……薙刀と感覚は同じだ。
それを確かめてから、薙刀を振るっていた時を思い出し構える。
「瑠花殿……?」
突然槍を持った私に戸惑いを隠せないらしく、白龍さんが怪訝そうに見つめているのがわかる。
だけど今は、それすら気にならない。
だって私は魅入られてしまったから。
白龍さんのあの振る舞いに。
私もあんなふうに、ただ真っ直ぐに薙刀を振るいたいとそう思えたから。
だからね、そんなふうにまた思わせてくれた白龍さんに感謝の気持を込めて。
私も自分の全部を見せるかのように槍を振るった。