第1章 はじまり
手を振り回して目の前のものをはね避けようとするが、逆に手をつかまれてしまう。すると全身が凍り付いたかのように動けなくなる。それはだんだんとアリシアに頭部を近づけていった。真っ赤な口先を笑みで歪めながら父のような塊はゆっくりと呼吸がかかる距離まで来て唇を動かした。
―― 。
その言葉にアリシアは目を見開いた。
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目が覚めると自室のベットの上だった。
アリシアは荒く肩で息をしていた。心臓がどくどくと耳のそばで鳴っている。
それなのに体はぶるりとするほど寒い。投げ出していたらしいシーツを発見してそれを被る。体を動かすとパジャマが湿っていることに気が付いた。汗をかいていたのだ、
汗でパジャマが湿気ていて気持ち悪い。早々に脱ぎ捨ててしまいたいが、そんな気力はなかった。
枕元に置いていた銃を手に取り抱きしめる。
「最、悪……」
あれは何なのだろう。始めは最高な夢だったのに、途中から地獄のようなものを見せられる。
――またですか
この夢は今回に限ってのことではなかった。内容は少し違えど、最後は結局悪夢になるのだ。
しかも、夢を見ている意識があるのに、悪夢になることを毎回忘れている。何故あんな夢を見るのだろう。アリシアは夢の中の父と母に会いたいと思っているのだろうか。
だが、それは叶わない。黒の教団に所属したものは家族に会うことや連絡を禁じているからだ。でも、それは仕方がない。
千年伯爵の兵器AKUMAは、生きている人間に成り変わって世界に紛れ込むからだ。
やり方はこうだ。誰かが何かの理由で死ぬ。それを悲しむ人間がいて、そこに伯爵が現れて手を差し伸べるのだ。
「アナタの大好きな人を生き返らせてあげまショウカ?」と。
その手を取った人間は殺されAKUMAを隠す皮となり、この世界に存在し続ける。エクソシストが壊さない限り。世界にはひっそりと敵が増え続けている。知らぬうちに闇は濃くなっているのだ。
だから、教団に所属したものは血縁者には会えない。もし死んでしまったときに千年伯爵に付け込まれる危険性があるから。アリシアたちはひっそりと消えゆくしかないのだ。