第2章 貴女に愛が届くまで
親方と青年は手をあげた。そこでアリシアは手を振ってドアノブに手をかけて外に出る。早く出るぞと訴えていた神田が出てこない。そこでちらりとドアを開けると神田が深々とお礼をするのをみて驚いた。
「情報感謝する」
そして、出てこようとする神田と目が合った。アリシアは驚きすぎてじっと見つめてしまう。神田は顔をしかめた。
「どけよ、チビ」
「え? あ、すみません」
いつもなら嫌味の一つも出てくるものなのだが、それが出てこない。あんな神田は初めて見た。人に敬意を払い礼をするなんてアリシアにとって地面がひっくり返ってもあり得ないことだった。
アリシアにとっての神田は人に対して傍若無人で不遜で最低な人間だと思っていた。でも、あの姿を見ると今までの印象がほんの少しだけ間違っているかもしれないと思えた。
神田はまじまじと見ているアリシアにみけんのしわを深くする。
「なんだよ?」
「いえ、意外だっただけです。あなたがちゃんと礼をしているところ初めて見ましたから」
神田は顔をしかめたが、ふと表情が普段に戻った。そしてボソッとつぶやく。
「……俺も意外だった」
「ん? 何がです?」
首を傾げたアリシアを神田はしばらく見つめた後、別の方向を向いた。
「……別に」
「え、なんですか?」
「うるせぇ! マメチビ!」
「な!? 怒鳴るな、バカンダ!」
その後、何度聞いても神田は答えてくれなかった。
その訳を聞けるのはアリシアが悲しみの淵から這い上がった後だった。