第1章 はじまり
へブラスカは赤毛の男の方へと向き直る。
「あ、ありがとう……クロス」
クロスと呼ばれた男は柔和に笑うと触手を手に取りキスをした。
「女につらい思いはさせたくないからな」
その言葉にへブラスカはクスリと笑う。
「わ、私を……女扱いするのは、お、お前くらいだ」
クロスはにやりと笑って言い返す。
「美人はどんな姿になっても美人だってわかんだよ」
アリシアはへブラスカから離れクロスの足にしがみつく。クロスがわずかに身じろいだが、何も言いはしなかった。
そしてアリシアはクロスの足から顔だけへブラスカに向けて謝罪した。
「あの、ごめんなさい。――ばけものなんて言って」
おそるおそる言ったアリシアの言葉にへブラスカの唇が優しく弧を描いた。
「か、かまわない……気にするな」
気持ちが通じたことがうれしくてアリシアは笑顔になる。へブラスカが優しい人だということがすごくわかった。
クロスがアリシアを見て笑い、へブラスカに向けて言う。
「へブラスカ、預言はないのか?」
「よげんって?」
クロスに対して不思議そうに見上げたアリシアに彼は髪をくしゃくしゃに撫でた。
「占いみたいなもんだ」
「ふーん」
へブラスカはアリシアを見て真剣に言葉を告げる。
「……アリシア・ボールドウィン」
その緊迫した空気にアリシアは息を呑み込む。
「お前のイノセンスはお前の愛する誰かの為にお前を殺すだろう……そう私には感じられた」
その言葉に少なからずアリシアは混乱した。前半は良かった、だが、後半の殺すとはどういう意味だろう。どんな考え方をしても穏やかじゃない。イノセンスがアリシアを殺す。その言葉が不安になってクロスを見つめると、彼は大笑いし始めた。笑っている意味が分からず、アリシアはおろおろしていると今度は抱き上げられた。
「お前に愛される男は最高だな」
「なぜ?」
純粋に不思議に思った。そしたらクロスはアリシアの耳元に唇を近づけてささやいた。
「お前が死んでもいいって思えるほど愛されるんだぜ?」
男冥利に尽きるだろ?なんて言ってクロスは笑った。まだアリシアにはその言葉の意味が分からなかったが、クロスが言ったこととへブラスカの預言はずっと胸に残ることになる。
そうして、新たなエクソシストが誕生した。