第1章 はじまり
「なら、上げればいいだけのことだ」
「お、お前は……」
責めるような声音でへブラスカは赤い団服の男を見た。男は相好を崩さなかった。アリシアは自分の状況を全くつかめずにやりとりを見ているだけしかない。
「つまりはこいつが戦えればいいんでしょう?」
明るい調子の声が割り込んできた。そばにいた赤毛の男だった。
「へブラスカ、聞くが”力はない”ってのは威力が弱いってことなんだろ?」
「あぁ……そうだ」
「ならオレ様がなんとかしてやろう」
「出来るのかね?」
射殺しそうな眼差しの男にものともせず赤毛の男は肩をすくませる。
「舐めるなよ、女鳴かせるより簡単だぜ」
赤い団服の男はじっと赤毛の男を見定めるように眺めている。しばらくするとまた笑顔になった。
「そこまで言うならやってもらいましょう」
男が指を鳴らし、赤毛の周りに赤い団服が取り囲む。その様子に赤毛の男が呆れたように頭をかく。
「監視付かよ、だりぃ」
「日頃の貴方の行いが悪いせいです元帥」
舌打ちをして赤毛の男はハイハイと気のない返事をした。赤い団服の男の眉間に筋が入ったがそれさえ気にしていない。赤毛の男はこちらに近づいてきてへブラスカの触手に触る。
「へブラスカ下ろしてやれ」
「あぁ……」
言われてへブラスカはアリシアをゆっくりと地面へと下ろした。そしてアリシアがじっと銃を見つめているのを知り、手のひらに銃を丁寧に置いた。そのやり方を見てアリシアはへブラスカのことを化け物と言ったことを後悔した。
アリシアはへブラスカをじっと見つめる。へブラスカはアリシアを見つめて微笑んでいるように感じた。さらに胸が苦しくなった。