第2章 貴女に愛が届くまで
「で? 何が聞きてぇんだ」
本当に作業をしながら親方は話をするつもりらしい。太い指で細かな作業をしている。粗野な印象とは大違いな繊細で美しい。見惚れて言葉が出ないアリシアを見て神田が口を開いた。
「この工房で死人が出たことは?」
親方は一瞬手を止めたが、こちらをまるで見ようとしない。
「いきなり物騒な話だな」
神田は気にせず話を進めた。
「この街で今、おかしなことが起こっているだろう?」
「あぁ、あれ困るんだよなぁ。作業中に寝ちゃって進まねー」
青年は何度もうなづく。その様子に親方はぎろりとにらんだ。
「話の腰を折るんじゃねぇ、馬鹿たれ」
親方が手を振って話を促される。神田は言葉を続けた。
「その中でこの工房から男が出ていく幻が出てる。そいつが通りが馬車に轢かれて死ぬところが毎日繰り返されている」
親方の手が完全に止まり工房内が静まり返る。親方はあごを撫でてうなる。
「あいにくだが死人は出てねぇな、俺はこの工房に15から居るがそれから40年そんなことはねぇ」
「なら、失踪者は?」
神田の言葉に親方は鼻で笑う。
「そんな奴、いっぱいいて覚えちゃいねぇよ」
神田に青年が近づいてきて小さな声で耳打ちする。
「親父が親方になってから続いてんのは俺一人だけなんだ」
親方は目をつり上げて声を張り上げる。
「聞こえてんぞ! 馬鹿息子!」
すると工房内をずっと楽しそうに眺めていたアリシアがやっと口を開く。
「あの、あれってなんです?」
三人が一斉にアリシアが向いてる方を見る。するとそこには二体の人形が置いてあった。子供の男の子と女の子が向かい合っている。よく見ると土台があってつながっている。
青年は鼻を鳴らしてにやりと笑う。
「あれはオートマタだ」
「オートマタ? あれもオルゴールなんですね!?」
前のめりになるアリシアに青年はさらに熱くなり口調が早くなる。
「あれはな、人形師と職人が作り上げるもんなんだ! からくりとオルゴールの奏でるコラボレーション! まさにあれは技巧を重ねた芸術品だ! それにあれは――おごぉ!?」
青年は崩れ落ちるように座り込み、脇腹を抑えている。どうやら脇に蹴りが入ったようだ。背後には親方が拳をふるわせて立っている。