第2章 貴女に愛が届くまで
「私も話に混ぜていただけませんか?」
親方は鼻を鳴らして言葉を吐き捨てる。
「混ぜるもなにも、おれからお前らに話せることなんてねーよ」
「どうしてですか!?」
ここが空振りだとまた苦労して音色を追わなければならない。それはなんとしても避けたい。
親方は渋い顔で頭をかいた。
「市長から教団に情報を渡すなと言われててな、渡すとここじゃ商売が出来なくなる」
市長からしたら自分たちは商売の邪魔でしかないんだろう。止めに入られるのはもはや必然だ。しかもここはオルゴールの観光地と言っていい。そこで商売が出来なくなるとすると路頭に迷う可能性があるのだろう。
箝口令が出される前に何故早く気が付かなかったのだろうと自分の至らなさに唇を噛んだ。
そこにさっきまでうめいていた青年が勢いよく立ち上がる。そして自分の父親をにらみつけた。
「今さらあいつの言いなりになるってのかよ、親父!」
散々楯突いてきたくせに、と言い終わるや否や彼の頭に拳骨が降り注がれた。青年は地面にめり込むように沈んだ。
「ま、だから俺は作業をする。祭りで出店する分が終わってないんでな」
親方は近くの椅子に座り、作業道具をつかみだしていく。
神田がしびれをいらしたのか親方に歩み寄った。
「さっきの説明じゃわからなかったか? これは人命に関わることだ」
神田が鋭い眼光で見つめる。言葉に挑発されたように親方は鼻で笑う。
「じゃあ、その人命に関わることで俺たちが食いっぱぐれてもいいってか。さすが教会の人間は高尚だねぇ」
神田のみけんに深いしわが入る。押し黙った神田の代わりに今度はアリシアが口かを切った。
「では、私たち黒の教団の御用達になりませんか?」
片まゆをあげて親方がアリシアを見る。アリシアはほほ笑んだ。
「黒の教団には世界中で様々な方が力添えされています。もちろん芸術品を欲しがる方々もいっぱいいるでしょう、どうです? この街よりかは今より名が売れて豊かな暮らしと環境をお約束できると思いますが」
にこやかなアリシアの顔をうさんくさげな表情で親方が見つめてくる。そしてまた作業に戻ってつぶやいた。