第2章 貴女に愛が届くまで
「わぁ!」
アリシアは思わず感嘆の声をあげる。目の前の光景に心を奪われた。
円盤の形をした金属、丁寧に掘られた木の箱に入れられたオルゴール。どれも輝くような作品に見える。まさに芸術作品だ。青年はにやりと笑って胸を張って腕を組んだ。
「どうだ、素晴らしいだろー?」
「はい! もう! 感激です! きらびやかで美しい!」
褒めちぎるアリシアに嬉しくなったのか青年は照れ臭そうに鼻をこすった。
「そーだろー、そーだろー! ここいらじゃ俺んとこが一番だからな!」
わずかな時間でお土産屋を覗いたが、ここは段違いな美しさだ。工房の印がどれにも入っているように見える。それなのに土産屋では見かけなかった。
「あの、お土産屋さんでは売らないんですか?」
その言葉に青年は苦い顔をした。
「あー、うちはなちょっとな」
なにか理由があるらしい。だが、今のアリシアはオルゴールの方に目を向けてしまっている。
「あれもオルゴールなんですか!?」
指で示した先にあるのは籠の中の鳥だ。青い鳥で色つやが本物のようだ。精巧に作られているのがすぐにわかる。青年は鷹揚にゆっくりとうなづく。
「そうだ、これはシンギングバードっつって中の鳥が動きながらメロディーが流れるんだぜ!」
「へぇー!?」
二人で騒いでいると真後ろから地響きのように低い声がかかる。
「見習いの癖になに偉そうに語ってやがる」
振り返るとこちらを見下ろすように中年の男性が立っていた。とても背が高い。青年が飛び上がり、怯えるように後退した。
「親父!?」
青年の声に中年の男性は目をくわっと見開いて頭に拳骨を振り下ろす。
「ぐおぉぉぉ」
「馬鹿たれ! ここでは親方って呼べっつってんだろーが!」
しゃがみこんだ青年をよそに男はアリシアの方を向き直る。眼光が鋭くすごい迫力だ。
「あんたも黒の教団ってとこの団員か」
アリシアは背を正し、負けじと見つめ返した。
「そうです。――私と同じ服の男が来たはずですが」
周りを見回すと奥の部屋から見慣れた男がアリシアを見ていた。死ぬほど嫌そうな表情でこちらを見ている。こちらも負けず劣らずな表情をしているのでお互い様だ。親方と呼ばれた男に向かってにこやかに話しかける。