第2章 貴女に愛が届くまで
窓から朝の柔らかな日差しが差し込んでくる。清々しい朝だ。腹ただしいことに。
ほぼ寝れていないアリシアにとってはあまり良いようにはとらえられない。食堂で重い体を椅子に預け、目の下を黒くしてため息をついた。
目の前には先ほど頼んだばかりの朝食が並んでいる。だが、あまり食欲はない。
そして周りは食べ物の匂いが充満していてさらにげんなりしている。本来ならば美味しそうと感じるのだろう。その証拠に厨房は大忙しだ。
遠くからでも肉が焼ける音が聞こえる。軽快にフライパンを回して油をしみこませ、卵をその上に割り入れる。焼ける音がアリシアの耳を刺激した。ただ、何度も言うがアリシアは食欲は皆無だった。
皿の上には目玉焼きとパンとソーセージ。豪華とは言えないが、粗食でもない。宿泊客のなごやかな会話を聞きつつ、アリシアは力なくこんがりと焼けたソーセージをフォークで刺した。先をかじり咀嚼すると肉汁が口の中で広がって美味しい。ただ、アリシアの表情は晴れない。
美味しくともあんな待遇を受けた後なので快くは思えないが、宿の中の食堂は繁盛していた。
恐らく数日後の祭りのせいでもあるのだろうが、席はほぼ埋まっている。
賑やかな朝の食堂。まったくもって結構なことだ。
とても怪奇が起こっているとは思えない。
隣で楽しそうに会話をしている若い夫婦が嬉しそうにはしゃいでいる。耳を傾けるとどうやら昨日の怪奇の話のようだった。ご婦人の方が目を輝かして熱弁している。
「噂通りだったわね! びっくりしたわ!」
その言葉に旦那は感慨深そうにうなづいている。
「こんなことがあるんだなぁ」
「わたし音色を聞いていたはずなのにいつの間にか寝ていたわ、気がついたら真夜中だったし驚いちゃった」
「僕もだよ」
彼らの言葉を聞きながら、アリシアはまたため息をついた。
怪奇を純粋に喜べるなんてなんて幸せなことだろう、と内心アリシアは思う。真実を知らないということはとても幸せなことなのかもしれない。寝てる間に死人が出たしまうかもしれないというのに、のんきなことだ。
人間は不思議なことが大好きだ。
だから噂が立ち黒の教団はイノセンスを探しやすくなるのだろうけれど。アリシアはそれを快く思えない。
彼らの知らない間に仲間が死ぬのだから、仕方ないと思っていても皮肉を吐いてしまいそうになってしまう。