第2章 貴女に愛が届くまで
すると馬車の中から人が出てきた。シルクハットに礼服を着ている。身なりが整っており、ある程度地位の高い人物であることがうかがえる。その男の顔が見えたとき誰かに似ていると思ったが、アリシアは混乱しすぎて誰かはわからなかった。
男は死んだ男を見て目深に帽子を被った。そして思い悩むように数歩あるいた後、何かを拾い上げ、御者に指さして何かを指示している。御者は何度もうなづき。死んだ男を持ち上げ馬車の中に入れた。そして飛ぶような勢いでその場を離れた。
そこにはシルクハットの男とアリシアだけになった。すると男は先ほど拾い上げたものを大事そうに持ってその場を離れていく。あまりの出来事に全てを把握しきれずに呆然としてしまう。
さっきの出来事はなんなんだろう。ぶつかりそうになった相手をすり抜け、今度は馬に踏みつぶされそうになって、何もかもがいなくなった。そういえば、あんな出来事があったのに彼らの声は聞こえなかった。
これもイノセンスの起こしている怪異なのだろうか。深く考えても全貌が見えてこない。思考を巡らせてもまるで分らなかった。
その時、突然肩を揺さぶられた。
「おい! イノセンスは!」
神田がすごい形相でこちらを見ていた。
そしてはっとする。オルゴールの音はもうかすかにしか聞こえない。時計を見るともうみんなが寝始めてから二時間が経とうとしている。もう追うことは難しいだろう。
何も言えずにうつむくと、神田はつかんでいた肩を乱暴に離して舌打ちをした。