第2章 貴女に愛が届くまで
その時だった。
空から降るようにかすかだが音楽が聞こえてきた。櫛歯をはじき、円筒の金属が回る。オルゴールの音だ。
繊細でどこかでなつかしさを覚える。それに聞いたことのある曲調だった。だがなぜか思い出せない。
すると周りの人間たちに変化が起こり始めた。一斉に耳を澄まし始めたのだ。嬉しそうに、酔いしれるように街の人々や旅行者が目をつむる。
そして、ゆっくりと一人、また一人と眠りに落ちていく。怪奇が始まったのだ。
アリシアは叫ぶ。
「神田!」
先ほどまでつまらなそうにしていた神田が椅子が転げるほどの勢いで立ち上がる。
「どっからだ!」
「わかってたら向かってます!」
言って二人はオルゴールの音に集中した。ここは住宅街に近い宿なので中心とは言い難いが、比較的どちらで鳴っているかはわかりやすいはずだ。アリシアとしては遠くから聞こえていように思う。
突然神田が何も言わず走り出す。置いていかれないようにアリシアもつられて後を追う。
「どちらからかよくすぐわかりましたね!」
マリ並みに聴覚が優れているのだるかと疑うくらいの速さだ。驚いているアリシアに神田は言葉を吐き捨てる。
「いいから走れ!」
二人は歩いている人たちが心地よさそうな顔をして倒れていくのを見ながら走っていく。その様子はやはり異常だ。やはりイノセンスの共鳴者であるエクソシストには効果がない。ということはやはりイノセンスの可能性が高い。
神田が向かっているのは住宅街から反対側の工房がある通りのようだ。
「工房側でしたか……」
残念そうにつぶやくアリシアに神田は鼻で笑う。
「当てが外れてガッカリかよ」
その言葉にむっとしたがアリシアは言い返さなかった。
「今の時間人があまりいないでしょうからAKUMAの襲撃が来ても被害は少なそうです」
「口だけは達者だな。――油断してAKUMAにやられそうになっても俺は助けねぇからな」
「何年エクソシストやってると思ってるんですか、ぶち抜きますよ」
神田はため息をついて腰につがえた刀に手を添える。アリシアも同じく拳銃を取り出す。
「……言ってる間に来やがった」