第2章 貴女に愛が届くまで
「イノセンスは僕らが考え付かないことを行えることが出来る物質だ。ありえないことじゃない。――けど」
「けど?」
なにか思いついたのだろうか、アリシアは期待して声を待っていた。が、そうではなかった。
「いやぁ! ボクにもわっかんないやあっはは!」
「笑い事じゃないですよ!」
なにかヒントがもらえるかと思っていたのに期待した分見事に落とされた。コムイとの会話は疲れる。ため息をついた。そして今日の出来事が頭の中で渦巻いた。イライラとともに。
「……コムイ」
「ん? 何だい?」
「パートナーの変更ってできないんですか?」
ほんの少し間があった。そしてコムイの固い声がアリシアに届く。
「それは出来ない」
「なぜですか!? 私が奴と仲悪いの知ってるじゃないですか!」
神田はもう奴呼ばわりだ。アリシアと神田は教団本部内で知れ渡ってるほど犬猿の仲なのになぜわざと組ませたのだろう。そう考えるとコムイに対しても怒りがわいてくる。
「そう? ボクはキミたちがパートナーなのはぴったりだと思うけど」
「正気ですか!?」
「だって、神田くんってみんなに対して距離置くでしょ? それにキミだったらなんとか出来るんじゃないかな。――ケンカするほど仲が良いっていうし」
「あれはケンカじゃありません! ケンカという名の会話の弾丸の打ち合いです!」
つまりは相手をいかに傷つけあうかの血みどろの戦いなのだ。言葉のキャッチボールなど楽しそうなものではない。アリシアの例えにコムイが楽しそうに笑い出す。
「それでもいいんだ。彼にとってきっとプラスになる」
「私にはプラスなんてありません!」
声を荒げて断言するとコムイの笑い声が唐突に消える。
「――キミはアールに依存しすぎてる」
コムイの声が真摯に訴えるようにアリシアに対して言葉を放った。それはアリシアに確かに届き、言葉が詰まる。
「でも、今まではそれでよかったのに。なんで今から違うようにしなければならないんですか?」
アリシアの疑問にコムイは沈黙した。何か理由があるのだろうか。それを深く考えるより先にコムイの声が思考を遮った。