第2章 貴女に愛が届くまで
アリシアが一通り話した後、電話口から聞こえてきた声はあっけらかんとしていた。
「へぇーふんふん。そうだったんだー。大変だったねー」
明らかに大変だとは思っていない声音だ。
「コムイ! ちゃんと聞いていましたか!?」
コムイに話すだけで今日の神田とのやりとりがいちいち思い出される。
――自分の身を守れない奴なんてエクソシストでも何でもねーよ
あれだけのことを言われてアリシアの心中は穏やかでいられない。むしろ煮えたぎっている。その怒りが届いてないのか届いているのかコムイはのらりくらりとしゃべっている。
「きーてたよー、で、その後はどうだった? 工房には話聞いてきた?」
その後を聞かれてアリシアの表情はくもった。
「……聞いてきましたけど、どこから鳴ってるとかはみんな曖昧で絞り切れませんでした」
あの後、一人で工房を回り話を聞いてきたが、いまいち収穫はない。神田が言った”無駄なこと”が頭の中で反芻されてアリシアは歯ぎしりする。だが、そんなことコムイはお構いなく尋ねてくる。
「曖昧?どんな風に?」
喰いついてきたコムイにアリシアはなんとも言い難い顔になる。
「なんだか、気を失うのは一緒の時間じゃないみたいで、聞いているうちに音が小さくなったとか、大きくなったとか言ってるんですよ」」
「アリシアの推測を聞きたい。どう思う?」
「……推測の範囲でしかありませんけど、聞いた場所で変わるんじゃなくイノセンス自体が動いてるような感じです」
コムイが驚いたように息を吐いたのか聞こえてきた。
「まさか、移動している? イノセンスが自力で? 適合者じゃなく?」
「適合者なら、毎日そんな無駄なことします? みんな眠らせて盗みを働いてるのかとも思いましたけど、被害はないとみなさんおっしゃってました」
電話先のコムイがうなる。彼にも考え付かないようだ。
アリシアにはさっぱりだ。もう今はちゃんと報告しようにもまともに言える自信がない。
「自立型のイノセンスなんてあるんですか? にわかには信じがたいんですけど」
今までイノセンスは主に寄生型、装備型の二種類しか発見されていないはずだ。今回のイノセンスは足でもついているというのだろうか。足が付いたオルゴール。想像するとものすごく滑稽なことのように思える。