第2章 貴女に愛が届くまで
神田からの物言いにアリシアは拳を握った。だが、けんかをしても何もならない。アリシアは息を吐き、まっすぐに神田を見る。
「……わかりました」
そして、神田と目を合わせてアリシアは言い、頭を下げた。
「じゃあ、オルゴールが鳴るまえは宿近くのバーに集合でお願いします」
返答を待っていたが、何も聞こえてこない。聞こえてきたのは離れていく靴音だけだった。
顔を上げると神田は背を向けてさっと宿屋へと行こうとしている。アリシアが我慢していたものが爆発した。
「おっらあぁぁぁぁ!」」
アリシアは神田に向けて駆け出した。声につられて周りの人がこちらを見ている。だが、神田はこちらを向かなかった。
アリシアは勢いをつけて足を神田の背中目指して吸い込ませていく。要するに飛び蹴りだ。
神田は吹っ飛びながらも態勢を整えた。だが、アリシアの攻撃は止まらない。空中で体をくねらせて神田の脇腹を蹴り上げる。さすがの神田も地面を転がった。
追撃があるとは思わなかったようだ。そして地面に伏している神田を見下ろしているアリシアがいた。その目は絶対零度のように冷えていた。そしてしゃがんで胸元をつかむ。
「あなた、コムイから言われたこと忘れたんですか?」
手を払い、神田は鬼の形相でにらみつけて来る。だが、アリシアはものともしない。
「わたし達はお互い得るものがあるからコムイは組ませたんです、じゃないと新人にあなたは付いたでしょう」
あなたはという言葉を聞いて馬鹿にしたように神田は嗤う。
「お前のおもりをしてれば何かわかるってか?」
その言葉にアリシアは一瞬反応したが、それだけだった。
「えぇ、そうです。ですから私のおもりをしてください」
神田はアリシアの瞳から目をそらし立ち上がる。そして吐き捨てるように言葉を言った。
「自分の身を守れない奴なんてエクソシストでも何でもねーよ」
そして、神田は踵を返してアリシアから離れていった。
アリシアは手を握り締めながらつぶやく。
「……私だってあいつからなにを学べっていうんですかコムイ」
言葉はむなしく響き、アリシアもその場から去った。一人で工房地帯へと足を向けた。