第2章 貴女に愛が届くまで
一方市長邸を出た二人は少し離れて歩いている。二人の表情はまるで違う。一人は上機嫌で、もう一人は視線でことが殺せそうなほど怒りがにじみ出ていた。上機嫌なほうがくすくすと笑いだす。
「いやぁ、最高でしたね」
上機嫌なアリシアは笑いが収まらないようだ。
「まさか細腕の女性に……ふっ」
神田は黙っている。だが、みけんのしわがすごくなってきている。
「男の癖に女の人に抑えられちゃうってどんだけ、うわぁ!」
神田が六幻を首元に当ててきた、もちろん刃の部分が皮膚に当たるように。
「それ以上言うと頭と動が離れんぞ」
息をのんで黙ったアリシアに神田はすっと六幻を離す。
そして神田は何か考え込むように黙ってしまった。アリシアとしても先ほどの出来事には違和感がある。
男である神田が簡単に女性に組み敷かれるものだろうか。油断していたとしても変だ。
リアは何者なのだろうか。どちらにせよ警戒すべきと人物であることには違いない。
だが、今はイノセンス捜索が先だ。
「神田」
神田は返事をしないで黙っている。
「カンダ―?」
距離を詰めて彼の前に立ち見上げてみる。するとやっと気が付いたのか、みけんにしわを寄せる。
「なんだよ」
「なんだ、じゃありません! イノセンス探し始めますよ? まずは工房らへんから聞き取り始めましょう」
神田は一気にやる気をなくしたかのように半眼になる。
「やりてぇなら勝手に一人でしてろチビ」
「なぁ!? 鉄道内でもしゃべったでしょう?」
チビという言葉もかんに障るが、この非協力的なのはなぜなんだろう。確かにアリシアは工房地帯から話を聞いていこうと言ったはずだ。すると神田は鼻で笑う。
「テメェが勝手に喚いてただけだ。同意したつもりなんてねぇよ」
「じゃあ、あなたはどうするつもりなんですか!」
「宿に帰って寝る、夜は動き回るからな」
「――探す気もなさそうですね」
低い声を出してアリシアは神田を見る。五日間で見つけるにはそれなりの調査がいるはずだ。
だが、そんなアリシアを神田は冷笑する。
「お前こそそんな非効率なことしてどうすんだよ? 馬鹿か?」
「なっ!」
「要は鳴っている間に目星をつけるだけだ、簡単じゃねぇか」