第2章 貴女に愛が届くまで
エクソシストが去っていった部屋からは激しい物音がした。
陶器が割れる音、なにかを強くたたく音。そして怒声。
普通ならば入るのに臆するところだが、リアに掃除を頼まれたメイドは表情を変えずあっさりと部屋に入る。
部屋の中は案の定ひどい状態だった。茶器は割られ、周りの調度品も傷がついていたりと悲惨だ。
それにさっきまでにこやかに会話をしていたマルコも形相が変わっている。髪はふり乱れ、服はほつれが出来てしまっている。とても同一人物には見えない。
「あのクソエクソシストどもが!」
どうやらまだお怒りのようである。だが、それも気にせずメイドは腰をかがめて部屋の片づけを始めた。
「馬鹿にしやがって!」
ダァンと空気が震えるのが感じ取れそうなほど大きな音がした。今度はテーブルが殴られている。マルコの手は真っ赤に腫れていた。それでも怒りが収まらないのか、周りを見ている。すると部屋の隅でマルコを眺めていたリアが近づいて腫れた手を慈しむように取った。
「殺してはいかがですか?」
マルコが目をぎらつかせてリアの手を乱暴に離して頬をはる。
「馬鹿か!」
だが、リアは何の表情も変えず言う。
「なぜです?」
いぶかしむリアの声にマルコは言葉を吐き捨てた。
「ここ最近死人が増えている」
「そうですね、AKUMAですか……」
前に来た白を基調とした服を着た黒の教団員が言っていた。AKUMAは人の皮を被るのだという。
そして彼らは成長するために人を殺すらしい。だがら、異常に死人が増えているのであれば、AKUMAがいる可能性が高いのだ。
マルコにとって最善なのは、イノセンスの恩寵で街がもっと活気づいて欲しいのだ。だが、それはひどく難しい。
一介の市長にAKUMAに対応できるものなどないのだ。どちらにせよマルコの手中にはない。
歯ぎしりが聞こえそうなほどマルコは顔を歪めている。
リアは再びマルコの手に取り、握る。