第2章 貴女に愛が届くまで
調度品が適度に置かれ、センスが良く居心地の悪くない場所に通された二人は、ソファに座ってマルコと対面していた。だが、周りを見渡すと何故かオルゴールがない。ここの売りであるというのにどういう事なのだろう。音が鳴るものは公務の邪魔になるのだろうか。
そして他愛のない会話をしている間もリアは部屋の隅で立っている。ケーキをごちそうになり、紅茶を一通り楽しむとついにマルコは切り出した。
「それで調査の件なのですが……」
アリシアはピクリと反応する。ようやく本題かと思いちらっと神田を見る。もともと我慢が得意そうじゃない神田はすでに眉間のしわが深い。
「実はそのオルゴールを見つけないで欲しいのです」
アリシアは持っていた紅茶のカップをテーブルに乗せた。
「どういう理由かうかがってよろしいですか?」
「見ていただけたかと思いますが、私たちの街の売りはオルゴールです。それだけで街が潤っていると言っても過言ではない」
確かに入り口から繁華街までの道のりは賑やかで栄えていた。街全体が観光地のようなものなのだろう。
マルコは大げさな手振りをして目を光らせた。
「オルゴールの街で真夜中に意識を失うほどきれいな音色のオルゴールが流れる、面白いじゃないですか!」
つまりマルコはこれ以上に収入を得るための宣伝が欲しいのだ。それを聞いて笑みを作りながら告げる。
「でも、あなたがたは先に来た黒の教団の申し入れを受け入れたはずです。それを反故にするということはどういう意味か分かりますよね?」
教団の力は全世界に根付いている。それに異を唱えるということは自殺行為なのだ。
マルコは何度もうなづく。
「えぇ、えぇ、わかっております。ですので、五日待ってほしいのです」
意図を測りかねてアリシアは首をかしげる。マルコは人の良い笑みで顔の前で腕を組んだ。
「実は五日後に祭りを開催するのです」
意外な回答にアリシアが硬直する。確かに街を潤すためには必要なのだろう。だが、この市長に違和感を感じ始めていた。神田はテーブルに足をのせて嘲笑する。
「はっ、祭りのために人間が死んでもいいってことかよ」
マルコは首を振る。
「いえ、その為にあなた方に力を貸していただきたい」