第2章 貴女に愛が届くまで
手招きをされるまま、階段を降り入り口前に止められていた馬車へ迎えられた。市長の馬車だけあって豪華だ。リアは御者と何か話をし始めた。いそいそと乗ろうとしたアリシアの頭を神田がつかむ。アリシアはまゆを寄せる。
「なんですか」
「どうしてわかった?」
小声で尋ねる神田の顔を見てアリシアは何を聞きたいのかが分かったようだ。
「あぁ、来客の件ですか?」
ふふ、と笑いを含ませてアリシアは嬉しそうに話す。
「小切手渡したおじさんがいましたよね」
「あぁ」
「あの人、私たちを監視するための人だったんですよ」
「はぁ!?」
腰を抜かしていたあの男だ。信じられないという表情でアリシアを見ると彼女は得意そうな顔をして語り始める。
「ズバリ!理由は足です」
「足だぁ? 普通の靴だったじゃねぇか」
彼女はそうじゃないんですと楽しげに首を振る。
「彼はこぎれいな服を着ているのに靴がすごく汚かった。上流階級の人が気にしないはずがありません」
靴磨きならそこらじゅうでやっている。街中でも見かけたのでそういう人間が多いのだろうとは神田も思っていた。だが、一つ疑問が浮かぶ。
「じゃあ、あの小切手はなんなんだよ」
「もちろんただの紙切れです。お金なんてもらえませんよ」
裏面に神の鉄槌食らわせますよってソフトに書きましたけどね、なんて言って笑う。
本当に喜々として話すアリシアに神田は少し考えた後、ぽつりと漏らす。
「コエー女」
その言葉を耳ざとく聞いたアリシアは晴れやかに口の端を釣り上げた。
「お褒めいただき光栄です」