第2章 貴女に愛が届くまで
アリシアは満足そうに笑みを浮かべた。横で腰を抜かしてへたり込んでいる初老の男性にアリシアはポケットから紙切れを取り出し、カウンターに置いてあった羽ペンで数字を書いた。
「驚かせて申し訳ありませんでした。ここは満員のようですのでどこか別の場所をお探しください。これで謝罪できるとは思えませんがどうかお受け取りを」
アリシアは初老の男に紙切れを渡す。それに書いてある数字を見て男は目を見開く。
アリシアはクスリと笑って人差し指を自分の口にあてた。
「くれぐれも御内密に」
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アリシアはベットに体をなげうった。体重で沈み込む毛布、軋むスプリング、長時間鉄道で揺られた身としては嬉しい感触だ。
「はぁー、ベッド最高ー、やっぱこうじゃなくちゃですねーお部屋も二階の角部屋ですし、いやー最高」
「おい」
「そして、最高なのは朝食付きって所でしょうかー。あのバカ店主なかなかやりますね」
「おい!」
いらだった神田の呼びかけに、ようやっとアリシアは顔を向ける。
「なんですか? こっちは束の間の休息を楽しんでいるというのに本当に空気の読めない人ですね」
「てっめぇ……!」
抜刀しそうになってる神田を見てアリシアは気にしない風にのらりくらりと言う。
「仕方ないじゃないですか、ここツインなんですよ」
「二部屋取ってるって言ってたじゃねーか!」
怒鳴る神田の言い分もわからなくはない。本来、黒の教団は二部屋の一人部屋を取っていたのだ。一人部屋にそ
れぞれ通されるのが妥当だろう。アリシアはだるそうに上半身を持ち上げた。
「わざとしてもらったんですよ、ここ実は一人部屋ですし」
「あぁ?」
もう神田の怒りは爆発寸前だ。だが、アリシアはものともしない。
「それに今休憩してたほうがいいと思いますよ、来客が来そうですから」
神田の表情が怪訝そうになりアリシアを見た。
「……どういうことだ?」
アリシアは大きく欠伸をして頭を枕に沈み込ませた。そしてくぐもった声で言う。
「すぐにわかりますよ」
すると部屋がノックされる。アリシアはもうですかとため息をついて起き上り、部屋のドアまで近づいた。