第2章 貴女に愛が届くまで
団服をつかみながら立ち上がると、横をすっと身ぎれいな初老の男が横を通り過ぎた。
「部屋は開いとるかね」
店主はにこやかにうなづき、早々に手続きのために紙を持ってきた。その様子にアリシアは黒い笑みを浮かべた。そしてつかんでいた裾を離す。
「……神田GO」
神田は凶悪な笑みを浮かべてカウンターまで近づき店主の襟をつかみ、アリシアたちがいる側に引きずり降ろした。その様子に初老の男性はひぃと短く声をあげた。
「なにしやがっ……!!」
息をのむ店主に神田は六幻の刃を首元に突きつけ獰猛な獣のように獲物を見て嗤う。
「動いたら、すぐにあの世行きだと思え」
店主は震えあがる。その店主のそばにアリシアは寄ってきて微笑んでいた。だが、目は笑っていない。
「あなたが今からしなければいけないのは二つ、すぐに私達の部屋を用意すること。なぜ、私たちをここから追い出そうとしたか吐くことです。……出来なければ、わかりますね?」
店主は怯えていたが首を振った。神田は六幻の先を首に少し食い込ませる。
「やめてくれぇ! 無理なんだ! できないんだ!」
「なぜ? 誰かに命令されているんですか?」
ここで千年伯爵が思い浮かんだが、こんなまどろっこしい小細工をするだろうか? 思案しているアリシアに店主は叫ぶ。
「ここの市長だ!」
ここで神田とアリシアは顔を合わせる。たかが一介の市長が黒の教団の圧力を止められるはずがない。それに黒の教団が調査することなんて、もうすでに了解を取っているはずだ。何かがおかしい。
「神田、刀を離してあげてください」
「……どうすんだよ?」
神田が六幻を離すと小刻みに痙攣するようになてしまった店主にアリシアはにこやかに話しかける。
「私たちの名前で宿の名前を取ってください。それだけで構いません」
そして、店主に耳打ちをする。言葉が終わるや否や店主は何度も壊れようにうなづいた。