第2章 貴女に愛が届くまで
目的の街に着いたのは太陽が少し傾いた昼間だった。
ホームは意外と混雑をしていて、街が活気があることがわかる。オルゴールというのは嗜好品から子供のおもちゃまで幅広い購買層がいるからだろうか。アールにお土産でも買っていこうかと少しだけ観光気分になってしまう。
駅を出ると大きな時計仕掛けのオルゴールが出迎えてくれた。丁度時刻は⒖時。オルゴールが鳴り始めた。
それは、まさに出迎えにふさわしい明るい音楽だった。時計の中には仕掛けの小人たちが眠っている少女の周りで泣いていて、王子様であろう人形が少女にキスをしていた。
童話の物語を再現しているのだ。すごい技術力である。
「わぁ」
アリシアが感嘆の声をあげて足を止めていると、背後から黒い団服が横を通り過ぎる。
「観光じゃねーんだぞ、足止めんなバカ」
アリシアはその言葉にむっとする。
「わかってます! 早く宿いっちゃいましょう」
大股で背の高い神田を追い抜かして先を歩く。
それにしてもこんなに活気のある街でなぜ怪奇は起きているのか。見た目では全く分からない。それに、街の人々はにこやかでとても不安そうではない。
考えてもわからないことは聞くしかない。取りあえず宿屋に足早に向かうことにした。
――したのだが。
「泊められない!? どういうことですか!?」
宿屋の店主にアリシアがカウンター越しに訴えるも彼の態度は頑なだった。
「どうもなにも開いてる部屋がねぇんだよ」
アリシアはカウンターを怒りで叩く。
「そ・れ・は! ありえません! 黒の教団で予約を二部屋とっているはずです」
胸のローズクロスをわかりやすく見せてアリシアは店主をにらんだ。
すると店主はローズクロスをまじまじと見た後、鼻で笑った。
「どこかのお偉いさんだか知らんが、ないもんはないんだ。出てってくれ」
ぽんと頭をつかまれて放られる。アリシアがよろけているうちに、眼光が鋭くなった神田がカウンターに近づいていく。アリシアは神田の服の端をつかみ、止める。
「止めんじゃねぇよ、こういう奴はのされねぇとわかんねぇんだ」
「野蛮です! 交渉ならまだいくらでもある!」
「めんどくせぇ、ぶっ飛ばしゃいいんだ!」